7月のSansan TOKYO OPEN 2026に向けて、日本のピックルボールファンが最も知りたいこと。 それは「相手は誰で、どれくらい強いのか」だろう。
PPA Tour Asiaの2025シーズンが終わり、ランキングが確定した。結果を国別に並べてみると、アジアのピックルボール勢力図がくっきりと見えてくる。
ベトナム——テニスエリートが大量流入した「台風の目」
MB Vietnam Open 2025 — 7,906人の観客でギネス世界記録を樹立
男子シングルスのトップ5を見てほしい。
| 順位 | 選手名 | 国 |
|---|---|---|
| 1 | Hong Kit Wong | 香港 |
| 2 | Hoang Nam Ly | ベトナム |
| 3 | Phuc Huynh | ベトナム |
| 4 | Hien Truong | ベトナム |
| 5 | Giang Trinh | ベトナム |
5人中4人がベトナム。異常な占有率だ。
なぜベトナムがこれほど強いのか。答えはシンプルで、元テニスのトッププレイヤーが大量にピックルボールへ転向しているから。
リー・ホアンナム — Hangzhou Open 2025で男子シングルス優勝
リー・ホアンナム (Ly Hoang Nam) はATP最高231位の元ベトナム男子テニスNo.1。2025年3月にテニスを正式引退し、ピックルボールに専念した。フック・フイン (Phuc Huynh)、ヒエン・チュオン (Hien Truong)、ジアン・チン (Giang Trinh) も全員、元テニスのベトナム代表クラスだ。
背景には経済的な事情がある。テニスでは遠征費やビザ取得のハードルが高く、スポンサーもつきにくい。ピックルボールなら国内で賞金を稼げて、MBバンクなどの大企業からスポンサーもつく。実際、ベトナムのテニス代表チームは人材流出で崩壊寸前で、2025年のデビスカップは若手のみで参加する事態になった。
2025年のMB Vietnam Openでは7,906人の観客がアリーナを埋め、ピックルボール大会のギネス世界記録を樹立。国全体の認知度は88%(アジア12地域で1位)、DUPR登録者数は2025年に**+184%**成長した。
ベトナムはもはや「新興国」ではない。アジアピックルボールの中心地だ。
香港——アジア最強の男、ジャック・ウォン
ジャック・ウォン (Hong Kit Wong) — アジア男子シングルス・ダブルス両方で1位
ランキング1位に君臨するホンキット・ウォン (Hong Kit Wong)、通称ジャック・ウォン。1998年生まれ、26歳。5歳からテニスを始め、16歳でプロ転向。ATP最高653位、デビスカップ香港代表として14勝7敗。
数年前からピックルボールに専念し、今やアジアの男子シングルス・ダブルスの両方で1位に立つ。2025年のHong Kong Open 2025では地元で男子シングルス優勝。決勝でベトナムのジアン・チンを破った。7大会中5大会でメダルを獲得するという驚異的な安定感。
香港はHKCTA(香港中国テニス協会)がGlobal Pickleball Federationに完全加盟し、組織的な支援体制を整えている。公営施設12会場以上でコートが利用可能で、啓徳体育館 (Kai Tak Arena) のような世界クラスの会場も持つ。
東京OPENの男子シングルスで、三好健太が最も意識すべき相手がこの男だ。
台湾——女子ダブルスを支配する「勝利の変数」
女子ダブルスランキング1位のウェイ・ティンチェ (Ting Chieh Wei)。台北在住の26歳。彼女の2025年シーズンは異次元だった。3大会連続で、3人の異なるパートナーと組んで、すべて金メダル。誰と組んでも勝つ。「自分が勝利の変数」と評される所以だ。
台湾はバドミントンと卓球の強豪国。そこで培われた精密なパドルコントロール、超高速の反射神経、ネット際のタッチ感覚がピックルボールに直結している。女子シングルスでもランキング6〜9位に台湾勢が複数入る層の厚さ。2025年9月には新北市にリバーサイドピックルボールセンター(8コート)もオープン。インフラ面でも着実に成長中だ。
中国——PhD返上のロン・ユーフェイと6,000万人の巨大市場
ロン・ユーフェイ (Yufei Long) — 2025シーズン女子シングルス3冠の女王
女子シングルス1位のロン・ユーフェイ (Yufei Long)。元NCAAディビジョンIテニス選手で、ヴァンダービルト大学の博士課程(生物医学情報学)を延期してピックルボールに専念した「PhDを捨てた選手」として国際的に注目を集めている。2025年シーズンはMalaysia Open、Fukuoka Open、Vietnam Openの3大会で優勝。圧倒的な女子シングルスの女王だ。
中国全体では推定6,000万人以上が定期的にプレーし、政府が10,000の新コート建設計画を推進中。パドルのオンライン売上は月平均120万ドル(前年比約6倍)。市場規模ではアジア最大級のポテンシャルを持つ。
インド・韓国・オーストラリア——それぞれの強み
Vietnam Open 2025の決勝 — アジアのピックルボール熱が世界記録を生んだ
インド: 頻繁プレーヤー数1億7,800万人でアジア最多。World Pickleball League(WPBL)というフランチャイズ制リーグが2025年に開幕し、Sony Sportsで放映されている。ヴァンシック・カパディア (Vanshik Kapadia)(20歳、男子シングルス8位)がMalaysia Openで男子ダブルス金を獲得するなど、若い才能が台頭中。
韓国: キム・ウングォン (Eunggwon Kim) が男子ダブルスでアジア1位タイ。元プロ卓球選手として15年間プレーし、大学の体育授業でピックルボールに出会って転向。UPA Asia Trailblazersプログラムでアリゾナ留学中。「韓国でピックルボールを普及させたい」と語る。
オーストラリア: MLP Australiaが機能し、PPA Tour Australiaも独立運営。サーラ・デネヒー (Sahra Dennehy) が2025年シーズン終盤にVietnam OpenとHangzhou Openを連続優勝し、女子シングルス2位に急浮上した。
日本の立ち位置——「ラケットスポーツ大国」の底力
| カテゴリ | 日本人最上位 | 順位 |
|---|---|---|
| 男子シングルス | 三好健太 | 7位 |
| 男子ダブルス | 三好健太 | 8位 |
| 女子シングルス | 藤原里華 | 12位 |
| 女子ダブルス | 吉冨愛子 | 9位 |
正直に言えば、現時点ではベトナム・香港・台湾の後塵を拝している。しかし伸びしろは大きい。
日本の競技人口は2023年の約3,000人から2025年3月に約45,000人まで爆発的に増加。世界最大のピックルボールフランチャイズ「The Picklr」が日本に20施設展開を計画し、Sansanは池袋に専用施設をオープン。インフラは急速に整いつつある。
そして何より、テニス・ソフトテニス・バドミントン・卓球——日本はラケットスポーツの人材が分厚い。三好健太、船水雄太、畠山成冴、藤原里華、佐脇京、吉冨愛子。全員が別の競技でトップクラスの実績を持つ選手たちだ。
なぜ「元テニス選手」がアジアを席巻するのか
ここまで各国を見てきて、一つのパターンに気づいた人もいるだろう。
Wong(香港)→ 元テニスプロ。Ly、Huynh、Trinh(ベトナム)→ 元テニス代表。Long(中国)→ 元NCAAテニス。Kim(韓国)→ 元卓球プロ。三好、畠山、藤原、吉冨(日本)→ 元テニス選手。
アジアのピックルボール上位は、ほぼ全員が「元ラケットスポーツ選手」で占められている。
理由は明確だ。テニスのフットワーク、パデルのウォールプレー、バドミントンの反射神経、卓球のスピン感覚——これらがピックルボールにそのまま転用できる。さらにピックルボールはテニスより遠征費が安く、スポンサー獲得の機会も広い。アジアのアスリートにとって、経済的にも合理的な選択肢なのだ。
2026年からPPAとPPA Tour Asiaの統一ランキングシステムがスタートし、アジアの大会で獲得したポイントがそのまま世界ランキングに反映される。アジア勢が世界のトップランキングに食い込む日は、そう遠くない。
東京OPENは、このアジアの勢力図が一堂に会する大会になる。ベトナムのテニスエリート軍団、香港のジャック・ウォン、台湾の女子ダブルス女王、中国のPhD返上組——彼らに日本の6人がどう立ち向かうのか。
7月の立川が、アジアピックルボールの最前線になる。
参考リンク



